低用量ピルは、少量の女性ホルモンを含む薬剤で、おもに避妊目的(自費診療)で使用されるものを「OC(oral contraceptives)」と言います。
「子供を持つ」ということは、女性のライフステージの中でとても大きな出来事ですが、多くの女性が社会で活躍する現代では、ライフスタイルも多様化しているため、妊娠や出産の時期をOCでコントロールし、女性自身が選択できるということは大きなメリットです。
日本では、1999年に認可されたOCですが、アメリカでは1960年代からすでに50年以上も使用されている実績があり、世界全体では現在、約一億人もの女性に使用されています。
低用量ピル(OC)とは?
低用量ピル(OC)は、「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」という二つの女性ホルモンを合成し、避妊のために開発された薬剤です。(以下、OCと表記)
その成分は、卵巣で作られるホルモンとほとんど同じ構造をしていることから、一定期間服用を続けると、脳はすでに十分な量のホルモンが分泌されていると判断し、卵巣からのホルモン分泌を抑え、排卵をストップします。
また、子宮内膜の増殖を防ぎ、受精卵を着床しにくくする作用や、子宮の入り口(頸管:けいかん)の粘液を濃くして、精子の侵入を防ぐ作用もあることから、高い避妊効果が期待できます。
従来からあった中・高用量のピルは、副作用などの問題から、使用をためらわれることもありましたが、OCは、配合するホルモン量を低く抑えているため、高い避妊効果を維持しつつ、副作用は大幅に軽減され、安心して使用することができるようになりました。
OCをおすすめする人
女性にとって、年齢や時期、その時に置かれた状況などによって妊娠・出産の受け止め方はさまざまです。パートナーがいても、今しばらくは妊娠を希望しないという場合は、日頃からしっかり避妊のための対策をしておくことが大切です。
- 手軽な方法で確実に避妊したい
- 今は避妊の必要があるが、将来的には子供が欲しい
- 男性まかせでなく、自分でしっかり避妊対策をしたい
- 性感を損ねたくない
OCの効果(メリット)は?
OCには以下のような特徴(メリット)があります。
避妊率はほぼ100%
正しく服用すれば、ほぼ100%に近い避妊効果が期待できます。
コンドームを使用した場合の妊娠率(避妊を失敗した率)が2%であるのに対し、OCの妊娠率はわずか0.3%と、外科的な避妊手術などと同様の高い効果があります。
また、避妊を男性任せではなく、女性主体で行うことができるのも大きなメリットです。
(※ただし、飲み忘れがあると妊娠の可能性は高まりますので注意が必要です。)
各種避妊法を行った際の一年間の失敗率(妊娠率)
1年間にそれぞれの避妊方法を行った100人の女性のうち何人が妊娠するかを示しています。数字が少ないほど避妊効果が高いことが分かります。
避妊法 | 理想的な使用(%) | 一般的な使用(%) | 一年間の継続率(%) |
---|---|---|---|
低用量ピル(OC) | 0.3 | 8 | 63 |
コンドーム | 2 | 15 | 53 |
殺精子剤 | 18 | 29 | 42 |
ペッサリー | 6 | 16 | 57 |
薬物添加IUD | 0.1~0.6 | 0.1~0.8 | 78~81 |
リズム法 | 1〜9 | 25 | 51 |
女性避妊手術 | 0.5 | 0.5 | 100 |
男性避妊手術 | 0.1 | 0.15 | 100 |
避妊せず | 85 |
※理想的な使用:選んだ避妊法を正しく続けて使用している場合
※一般的な使用:飲み忘れを含め一般的に使用している場合
使用法が簡単
OCは、基本3週間、1日1錠ずつ飲み続け、残りの1週間は休薬というサイクルを繰り返します。(※飲み忘れ防止の偽薬を含む28日タイプもあり)
1周期分が1シートにまとめられているので、順番に沿って一錠ずつ飲んでいただくことで、手軽に避妊を行うことが可能です。
妊娠・出産を自由にコントロールできる
OCを服用している間、排卵は起こりませんが、服用を止めれば自然の月経周期に戻り、妊娠が可能になるので、いずれは子供が欲しいという方でも安心して使用できます。
OCを服用していたからといって将来、妊娠しにくくなるということはありませんし、服用をストップしてすぐ妊娠した場合も胎児へ影響はありません。
副作用が少なく、長期服用も可能
OCは、含有するエストロゲンの量が低用量(30μg~40μg /錠)に抑えられているため、従来のピルに多く見られた副作用(吐き気、頭痛など)や血栓症のリスクも大幅に軽減され、より安全性が高くなっています。
服用中は、定期的に検査(血液検査や子宮がんや乳がん検診など)を受けていただき、体の状態を確認する必要がありますが、月経開始後の若い女性から閉経まで長期に渡り継続して使用することも可能です。
女性特有の症状の軽減にも役立つ
OCを服用することで、ホルモンバランスが整うため、つらい生理痛や生理前に増えるニキビ・肌荒れなど、女性周期によって起こる不調を改善する効果(副効用)も期待できます。体の調子が整い、生理に左右されず快適な生活を送れるようになることで、生活の質(QOL)も高まります。
OCの内服方法
初めてOCを飲む時、薬剤のタイプによって内服をスタートするタイミングが異なります。
①Day1スタートピル
≪特徴≫月経の一日目から服用開始する方法で、21錠タイプと28錠タイプがあります。
21錠タイプ
1つのシートに21錠のピルがセットされています。
毎日1錠服用し、21日間(1シート)飲み終わったら7日間休薬したあと、新しいシートを飲み始めます。休薬時には、生理のような「消退出血(しょうたいしゅっけつ)」が起こりますが、この間は卵胞が発育しているため、再スタートの日を忘れて飲み遅れると妊娠の可能性があります。
28錠タイプ
1つのシートに28錠のピルがセットされています。
最後の7錠は、飲み忘れを防ぐためのプラセボ(偽薬:薬の成分が入っていない)で、実際は休薬状態であるため、この時期に消退出血が起こります。毎日飲み続けるため、習慣化しやすいのがメリットで、初めてピルを試す方にもおすすめです。
②サンデースタートピル
≪特徴≫月経が始まった後、最初の日曜日からピルを飲み始める方法です。
4週目の月曜日頃に消退出血が起こり、金曜日くらいに終了します。
週末に消退出血が重なりにくいため、スポーツや旅行、デートの予定などがある方に適しています。
①、②どちらのタイプも、毎日一定の時間に飲むことがポイントです。
飲み忘れは、妊娠のリスクが高まるほか、不正出血を引き起こすこともあります。
食事や歯磨きの後、就寝前など、日常生活で習慣になっている行動と関連付け、確実に服用するようにしましょう。
Day1スタートピルとSundayスタートピルの比較
Day1スタートピル | Sundayスタートピル | |
---|---|---|
服用開始日 | 月経開始1日目 | 月経開始後、最初の日曜日 |
メリット | 開始日が分かりやすい。 | ・消退出血が週末に重ならない。 ・毎回、開始が日曜日に固定されるため、覚えやすい。 |
デメリット | ・第2周期以降のの開始日は月経初日ではなくなるため、間違える可能性がある。 ・消退出血が週末に重なることがある。 | ・飲み始めの1週間は他の避妊法との併用が必要。 |
OCの副作用について
従来のピルに比べ、ホルモン量を低く抑えているOCは、安全性が高いのが特徴ですが、人によっては以下のような副作用が起きる場合があります。
マイナートラブル
服用開始後に、吐き気、頭痛、めまい、不正出血などの生理の時期に見られるような不快症状が起こる場合があります。
次第に身体が慣れてくると、症状も落ち着くことが多いですが、3か月以上たっても続く時には、薬との相性が悪いと判断し、薬剤を変更するなどして様子をみます。
血栓症のリスク
ピルの服用による重篤な副作用として、「血栓症(血管の中で血液の塊ができ、血液の流れを止めてしまう病気)」になる確率が若干上がるという報告があります。
低用量のOCに含まれるホルモン量はとても少ないため、基礎疾患のない健康な方であればそれほど心配することはありませんが、高度な肥満や喫煙の習慣のある人はリスクが高まりますので注意が必要です。
万一、服用開始後に、ふくらはぎのむくみや手足のしびれ、胸の痛み、動悸、息切れ、めまい、激しい頭痛などの症状が見られる時は、服用をストップし、医師にご相談ください。
ピル(OC)に関するQ&A
ピルはいつ飲めばよいですか?
ピルを飲む時間についてですが、基本的に24時間ごとに飲んでいただければ、何時でも大丈夫です。ご自身のライフスタイルに合わせ、毎日決まった時間に確実に飲む習慣を付けましょう。
ピルを飲む時間が多少前後することがありますが、どの程度の誤差なら大丈夫ですか?
服用時間の誤差についてですが、何時間ならOKというエビデンスはありません。
24 時間以内ならOKと言われますが、実際1シート以内に何度も大きなのみ遅れをすれば、24時間以内でも避妊効果が落ちてしまったケースもあります。
とにかくあまりずれない様に服用することが一番ですが、4 時間以内ならあまり気にしないで良いと思います。
ピルで性感染症(STD)の予防もできますか?
ピルでは、HIVや梅毒、クラミジアなどの性感染症の予防は出来ません。
性感染症を予防するにはコンドームの併用をおすすめします。
ピルを飲み忘れた時はどうしたら良いですか?服用を続けていれば避妊効果はありますか?
一回、飲み忘れたのであれば、気付いた時点で1錠服用していただき、そのあとはいつも通りの時間に服用すれば避妊効果は維持されます。
2回以上、飲み忘れた時は、直近の飲み忘れた一錠をすぐに服用し、そのあとはいつも通りに内服します。ただし、2回以上、飲み忘れが続くと、妊娠の可能性は高まります。
現在、ガイドラインでは、連続7錠服用することで避妊効果が得られるとされています。
ピルを飲んでいますが、病院で処方された薬と併用しても大丈夫でしょうか?
風邪薬のような一般的な薬であれば、通常、ピルの吸収率に影響を与えることはありませんのでそのまま継続服用していただいて大丈夫です。
ただし、抗てんかん薬など、一部の薬の中には影響が出るものもありますので、他の病気で薬を服用する際は、あらかじめOCを服用していることを伝え、医師や薬剤師にご確認ください。
ピルを服用し始めてあと少しで1シート目の偽薬になります。元々PMS症状がありますが、飲み始めてから情緒不安定で、イライラや落ち込みがひどいです。薬が合わないのでしょうか?
まだ最初の1シート目ということですので、判断が難しいですね。あと2シート継続してもPMSの症状が悪化するようなら、薬との相性が悪い場合が考えられますので、他の種類のピルへの変更を検討しましょう。
池袋クリニックの「ピル外来」の特色
OCによる避妊は、男性まかせではなく、女性主導で行うことができるのが大きなメリットです。
当院のピル外来では、全種類のOCを取り揃えていますので、それぞれの患者様に合った薬剤を選ぶことが可能です。
実際、当院では、ひと月に8,000シート以上の処方を行っており、ピルの使用に関するフォロー体制もしっかり整えております。
また、安心して長くお使いいただくためにも、院内でOCを処方することで、費用もリーズナブルに抑えることが可能です。
日本国内におけるピルの認知度は欧米に比べまだ低く、使用に関する誤解も多いのが実情ですが、ピルは女性の身体を守り、健やかな生活を送るために有効な薬です。
予想外の妊娠を避け、ご自身の身体を守るためにも、低用量ピル(OC)を上手に取り入れてみてはいかがでしょうか?